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「じゃあ、お風呂にしよう」
私は浩太兄ちゃんの目を見ながら、そう言った。
「ああ。じゃ、メシはあとにしてください。1時間でいいか?」
「え? せっかくの雪見風呂だから、もっとゆっくり入りたいな」
「はは…。わかったよ。ゆでだこになるなよ?」
コツンと額を人差し指でつつかれる。
こういう浩太兄ちゃんが笑顔が大好きだ。
「かしこまりました。それでは…。お風呂は小屋を出て
沢を少しくだったところにありますから」
部屋係のおばさんはそう言うと、丁寧に挨拶をして出て行った。
私と浩太兄ちゃんは、荷物を整理して着替えを持つと風呂場に向かった。
「どうした?」
「なんでもない」
小雪のちらつく中、木々が生い茂る沢沿いのせまい小道を抜けていく。
雪山を見ると思い出す。浩太兄ちゃんを追いかけたあの日を…。
どんなにおばあちゃんになっても忘れないだろう。
今こうしてそばにいられるのも、あの日があったおかげだから。
空気が凍っているように冷たくて、肩を寄せ合いながら
お風呂に向かったんだけど…。
湯煙の中、私は暖かな湯船につかっていたんだけど…。
脱衣所は別々だったはずなんだけど…。
「ね、ねぇ、その……は、はずかしいよ。もうあがってもいい?」
「なんでだよ。しょっちゅう、一緒に風呂入ってるじゃないか」
「そ、そんなこと言っちゃだめだってば! 他の人に聞かれたら…」
ポチャンという大きな水音が響く。一瞬、立ち上がろうとしてしまった。
浩太兄ちゃんがやさしく私の手をり、隣に座らせてくれた。
「落ち着けって。ただの混浴じゃないか」
「混浴ってことは、他の人も入ってくるんでしょう? み、見られたら…その…」
「まあ、雪見風呂を楽しもうじゃないか」
隣で湯船につかっている浩太兄ちゃんが、気持ちよさそうに天を仰ぐ。
ちゃぷちゃぷと肩にお湯をかけている音が静かな夜空に響いた。
ホント、呑気なんだから。
いくら普段一緒に入ってるからって、混浴風呂に入るのは抵抗がある。
他の人が入ってきちゃったら、どうしたらいいかわからない。
雪山に囲まれた露天風呂は、床も湯船も岩でできていた。
さほど広くはなく、5人もつかったらいっぱになってしまいだろう
ポツポツと灯る明りが、雪景色を幻想的に彩る。
「さて…。いつものように先に体洗ってやろうか?」
「だ、だからいつもの、は余計だって」
「じゃあ、いつもとは逆にみのりが俺の背中、流すか?」
「だから混浴でなんてそんなことしないから!!」
「ぶっ………はははは………」
「何よ。急に笑いだしてもう…。先にあがる!」
「2時間入っていたいだろう? なら、遠慮するなって」
「で、でも…他の人にその…見られたら……やっぱりはずかしいよ」
「…そうだな。俺もみのりを他人に見せたくない」
「………」
「お前は俺だけのもんだからな。ハダカでも、そうじゃなくてもさ」
「こ、浩太兄ちゃん……」
躰が熱くなる。照れ臭くてしょうがない。
浩太兄ちゃんの優しい瞳に吸い込まれてしまいそう。
「ここで二人きりだったら…いいのに…」
「二人きりだって」
「でも…」
「今日はここ、貸し切ったんだ」
「え……………きゃあ!!」
湯船からザバッと立ち上がろうとして、ぎゅっと浩太兄ちゃんに
抱きしめられる。力強い胸板が肩の辺りにぶつかっていた。
「じゃあ、混浴ってのは……」
「かわいかったな。顔を真っ赤にしてるみのり」
「ひどい!! もう……からかうなんて……」
「悪い悪い。みのりがかわいいから、ちょっと意地悪しただけだよ」
「……悪いクセなんだから」
ツンとおでこをつつき返す。私が怒らないってわかってる浩太兄ちゃん。
からかわれるのはちょっと癪だけど、こういう楽しいサプライズを
くれるやさしさが嬉しかった。いつまでも抱き合っていたい。
浸かっているお風呂よりも、心が熱くなっていく。
「さて…。いつものように体を洗ってやろうか?」
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