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「ねぇ、どこへ行くの?」
「ついてからのお楽しみだ」
隣の浩太兄ちゃんがにこにこしながら、ハンドルを握っている。
驚かそうとしてもう…。私は一人、くすりと笑ってしまった。
今年の年末は、旅行でも行ってノンビリ過ごそうって
言い出したのはいいけど、場所もホテルも全部内緒で
何も教えてくれないんだよね。
もしかして、あのこと…まだ怒ってるのかな?
ちらっと横顔を見る。ぼんやりと前を見る浩太兄ちゃんの表情は
いつもと変わらなかった。
「ね。浩太兄ちゃん」
「…あー?」
「もしかして、まだ怒ってる? あのこと…」
「あのこと…?」
「…そう。あのこと」
うんうんと頷いてみせる。
とたんに浩太兄ちゃんが眉間にシワを寄せた。
…やっぱり、怒ってるんだ。
浩太兄ちゃん…。ちっとも根に持つタイプじゃないのに、よっぽど頭にきたんだわ。
ああ、どうしよう。せっかく、楽しい旅行にしたかったのに。
「ホント、ごめんなさい。まさかタンスに私へのクリスマスプレゼントが
隠してあるとは思わなくて…」
「へ?」
「でも、あのブレスレット…。大切に使うからね。毎日着けたいって思うけど、
傷がついちゃったら、困るから……今日もバッグに入れて来て…」
「みのり、何の話だ?」
「え? クリスマスプレゼントを隠していた話…だけど…」
「それがどうかしたのか?」
そういってハンドルを切る浩太兄ちゃんは、ごく普通の顔をしていた。
「…そのこと、怒ってるんじゃないの?」
「あー、なんだ。あのことってそれかー。
俺はてっきり、目の前の赤い車がノロノロしてっから、
それかと思ったよ」
ツンと浩太兄ちゃんがアゴで前を指す。
そこには赤い小さい車があって、取り残されたみたいに
のろのろと走っていた。
「なんだ…」
ホッと息をつき、胸を撫でる。
よかった。浩太兄ちゃん、あのことは怒ってなかったんだ。
「そんなこと、気にしていたのか?」
「う、うん…ちょっと…だけ」
「あはは…。かわいいな、みのりは。俺はもう忘れていたのに」
ポンと浩太兄ちゃんの大きな手が、私の頭を撫でる。
いつもと変わらないやさしさが、そこには染み込んでいた。
とたんに、胸の中に温かいものが流れ込んでくる。
「ね。どこへ行くの?」
「んー? その質問、聞き飽きたなー」
「だって、知りたいんだもの。どこへ行くのか、お夕飯何かとか…」
「あはは…ついてからのお楽しみだよ」
「まったくもう」
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