※クリックすると大きい画像が表示されます。
小さな別荘は、二階建てで窓が上下に並んでいる。
建物はすべて丸太で出来ていて、三角の屋根がかわいらしかった。
こんなに素敵な場所を浩太兄ちゃんが探してくれたんだ。
そう思うと、胸が熱くなるんだけど…。
…今の私はそれどころじゃなかった。
「んっと…」
「ホント、平気だからっ! 私、歩けるし…」
浩太兄ちゃんが器用にも私を抱きかかえたまま、
玄関へのステップを上がっていたのだ。
いくら、数段といってもぐらぐら揺れて怖い。
雪を踏む音が小さく聞こえる。
「いいっていいって。ホント、みのりは軽いな」
「もう、下ろしてくれていいのに…」
浩太兄ちゃんたら、わざと困らせるようなことするんだから。
照れている私をからかってんだよね。もう子供みたい。
「じゃあ、こうしよう。俺がいいって言うまで目をつぶっているんだ。
そうしたら、下ろしてやろう」
何かたくらんでいるのはすぐにわかった。
だからって、ここでツッコミをいれても
浩太兄ちゃんが話してくれないに決まってる。
「…わかったよ。じゃあ、目をつぶってるね」
「…いい子だ」
かわいく頬にキスをされる。ふれた唇が熱かった。
私は静かに目を閉じた。
ドアをくぐり、床の軋む音が響く。
空気が変わる。部屋の中は暖かった。
「ふぅ……暖かい」
「暖炉に火をいれておいてくれたようだな」
「浩太兄ちゃん…まだ?」
「…また催促か? わがままなお姫様だな」
「部屋がみたいんだもの。どんなになってるのかなって」
「もうちょっとだ」
「きゃ」
突然、冷たい風が頬に当たる。外に出たみたい。
浩太兄ちゃんがスリッパを履かせてくれた。
「ほれ。目を開けていいぞ」
「あ……」
トンと床に下りて、ゆっくりと目を開ける。
「………わ……銀世界」
夕闇を雪を被った森林が、見渡す限り続いていたのだ。
車道沿いの街灯が山をなぞるように、くねって空に続く案内のように光っている。
遠くには山々が折り重なるように、連なっている。
予想していた部屋の中ではなかったことは、すぐに忘れてしまうほどきれいだった。
「いい顔するな。みのりは…」
頬を大きな手で撫でられる。私はその手を握った。
「この景色をお前に見せたかった」
「嬉しい。見た瞬間、息が止まっちゃうかと思うほどきれいだよ」
「…よかった。ここにして」
コツンと浩太兄ちゃんの肩に頭を乗せる。
辺りには小雪が舞っていた。幸せで胸がいっぱいになる。
浩太兄ちゃんさえ、そばにいてくれれば何もいらない。
目が合ってしまった。体が引きよせられているのがわかる。
浩太兄ちゃんがこういう顔をする時って、だいたい…。
「あの……」
「きゃあ!!」
突然の人の声に振り返ると、エプロンをしたふくよかな女性が立っていた。
うちのお母さんと同じぐらいの年かな? やさしそうな感じだった。
「すみません。何度か声をかけても、返事がなかったのでつい…」
「あー、すみません」
すごく気まずい。私は照れて真っ赤になってしまった。
それなのに、隣浩太兄ちゃんはなんでもなかったような顔をしている。
「お夕飯の山菜料理の準備ができていますので、
お運びするお時間を聞こうと思いまして…。
もし、露天風呂へ先へ行かれるのでしたら、遅くしますが…」
ふっと浩太兄ちゃんが私を見る。
「歩いてすぐのところ温泉があるんだ。そっち先にするか?」
「わー、雪見風呂だね。楽しみ」
「まあ、メシが先でもどっちでもいいが…」
|