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「今日は……私が浩太兄ちゃんを洗うよ」
「いつもとは逆パターンだな。どういう心境の変化だ?」
「いいから。さ…」
私は浩太兄ちゃんの両手をひっぱって、風呂場から出た。
ザパンという大きな水音が静かな夜空に響く。
浩太兄ちゃんが、洗い場の椅子に座る。
私はその後ろに回り、スポンジに石鹸をつけ始めた。
「後ろに座らなくもいいぞ」
浩太兄ちゃんが、私の髪を撫でながら顔を覗き込む。
照れ臭くて、手についた泡をパッとはじいた。
「うわ…」
「向かい合うのは……はずかしいから、いいよ」
「俺がお前を洗う時は、いつも正面だぞ」
「そ、それはその……いいのっ!! 私はその…浩太兄ちゃんみたいに…できなくて」
「じゃあ、俺がこっちを向けば…」
「だーめ」
くすくす笑いながら、今度は手についた石鹸の泡をふぅっと吹く。
浩太兄ちゃんの鼻の頭にそれがくっついた。
浩太兄ちゃんがそれをさっと拭く。
「泡のついた浩太兄ちゃんの顔、大好きなのに」
「ははは…。泡のついた顔ねぇ。もっと他にいい顔があるだろ?」
「笑った顔…運転している時のちょっと真剣な顔…。おいしそうにビールを飲む時の顔…あ、怒った顔もいいな。」
「これは?」
浩太兄ちゃんが両目のハジをひっぱって、アカンベーをする。
「あはは。子供みたいなんだから。でも、そういうのも好きだよ」
泡だらけになったスポンジを、浩太兄ちゃんの背中に滑らせていく。
思ったよりも、大きくてたくましかった。照れ臭くて目を反らす。
「たまにはいいな。みのりに洗ってもらうのも」
「…ここへ連れて来てくれたお礼だよ」
雪景色に囲まれた二人きりの露天風呂。
ちらちら舞う小雪が明かりに照らされて、宝石みたいにきれい。
「こんなにきれいなところへ連れて来てくれたんだもの。背中を流すぐらいじゃ、足りないぐらいだよ」
「そうか。じゃあ……追加は何をお願いしようかな」
「お風呂上がりのマッサージは?」
「それ、いいな。決まり。あとは…」
「お酌して…。あーんって食べさせてあげる」
「はは…。それもつけておこう。ええと…それと」
「ええー、まだあるの? そろそろいいでしょう?」
「はは。そうだな…。じゃあ、最後につけたすとしたら…」
「ええと、その…」
妙に声が上ずってしまった。
どうしよう。頭が勝手に余計なこと、考えてる。
顔も熱くなっていた。今赤面してるだろう。
「あいたた…。強くこすりだぞ」
「ご、ごめんなさい!! 力が…」
無意識にゴシゴシやってしまった。
ちょっと赤くなっちゃってる。ごめんなさい。浩太兄ちゃん。
「どうしたんだ?」
「え?」
「ははん…。何を考えていたんだ?」
「べ、べべ別に何も考えってないってば」
「…俺と同じことかな?」
「違うと思う!!」
「あはは…。ホントかわいいな。みのり。大好きだよ」
両手をきゅっと掴まれて、抱き寄せられる。
やさしくキスをされてしまった。
浩太兄ちゃんが私からスポンジをとる。
「選手交代だ。こっちを向いて」
「もう…。今日はとびっきりえっちな気がする」
「…いやか?」
私が否定しないって、わかりきっている質問だった。
全部答えもわかってて、それで言わせちゃうんだよね。でも…。
こういう時、私は浩太兄ちゃんが大好きなんだなって、自分でも驚いてしまう。
「夕飯、冷めちゃうかもしれないね」
「お前のぬくもりがあれば、なんてことないよ」
「ふふ。そうだね」
雪に囲まれた露天風呂は、空気がひんやりしていてひどく寒いはずなのに。
浩太兄ちゃんと一緒にいる私にとっては、熱すぎて…。
きっと、浩太兄ちゃんも同じなんだろうなって。
そう思うと、胸がいっぱいで幸せだった。
END
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