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「見えてきた」
「え……?」
高速道路を降りた車が、森林の中を走り続けて1時間が経過した頃だろうか。
浩太兄ちゃんが前のほうを指差す。
あたりはポツポツと雪景色が増えてきていた。
「え? 全然、見えないよ。どこへ行くの?」
「あそこだってほら。もっとこっちへ来てごらん」
「うん…」
浩太兄ちゃんの隣に座る私は、身を乗り出して
ハンドルのほうへと近づく。
でも、浩太兄ちゃんの言う”見えてきたもの”は
ちっともわからなかった。
見渡す限り、雪化粧をほどこされた森林が広がっている。
自然と私達は接近していた。
「見えないよ。ね、何が見えるの? それだけでもおしえ…」
「つかまえた」
「あ…」
私はいきなり抱きすくめられてしまった。
力強い腕が背中を覆っている。
片方の手はハンドルを握ったままだった。
「あ、危ないよ。浩太兄ちゃん、運転してるのに…」
「なあに。この道はまっすぐだから、平気だって」
「もう……」
さっと浩太兄ちゃんから離れたんだけど…。
私の顔は真っ赤になっていた。
「あはは。かわいいなみのりは。トマトみたいだ」
つんと浩太兄ちゃんが、私の頬を人差し指でつつく。
「トマト…イチゴのほうがかわいくていいな」
「どっちだって俺の好物には変わらないよ」
「もう…からかってばっかり」
私はコツンと浩太兄ちゃんの肩に頭をもたせかけた。
やさしいぬくもりが伝わってくる。
ここが私の居場所。どこよりも居心地がよかった。
車がスピードを緩めていく。
気がつくと、前の前にひっそりとした小さな別荘が見えてきた。
その前でゆっくりと止まる。
「ついたよ。お姫様」
「え……?」
「こっち」
「きゃ………浩太兄ちゃん?!」
車から降りた浩太兄ちゃんが、助手席の私を
ひょいと抱き上げたのだ。
「だ、大丈夫だって。私、歩けるから…」
「遠慮するなよ。俺が運んでやろう」
「浩太兄ちゃん…」
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